面堂敬太郎の活動録

徒然なるままに、趣味について書き綴っております

新生高等遊民 三十年記 第一巻 1

第一巻

序文

 かつてサブカルチャーとして揶揄されてきたオタク文化は今や日本が世界に誇るCOOL JAPANへと大変革を遂げた。オタク文化という名はもはや形骸となし、マンガ、アニメーションなるものもかつて映画がそうなったように娯楽から知的或いは芸術的財産として認知され始めている。とはいえ二〇二〇年現在、まだまだサブカルチャーという殻は厚く、情報手段が劇的に進歩した現代においてそれを実感するのは容易なことであるが、今がその殻を突き破るようなそう遠くはないであろう未来に至る過渡期の末期にあるのだとも切に感じ得てくる。本作は我々オタクの礎を築いてきた一九八〇年代初頭から二〇一〇年代前半の先人たちの奮闘記に大袈裟なフィクションを交えて描く長編小説として予定しております。ちなみにタイトルの新生高等遊民はオタクを意味した私なりの造語で、近代日本における急進的な文学発展に感化された文学青年らが定職にもつかず同人活動に明け暮れ、それらを夏目漱石高等遊民と呼称した事に由来しております。私自身が十代の小童なもんで、当時の描写を忠実に描けるかどうか不安な部分もあり、至らない点もあるとは思いますが、半分大河ドラマ、半分コメディとしてお楽しみいただければ幸いです。

二〇二〇年五月三一日 面堂敬太郎

 

第一章 未知との遭遇

一九八一年二月一日 早朝、外はまだまだ寒いどころかこれからますます寒くなるような気配であった。窓からは冬の眩しくもちくりと身体を突き刺すような冷たさを感じさせる光が差し込んでいた。偶然その光は部屋に貼られたスター・ウォーズのポスターのライトセーバ―が描かれている箇所に照っており、照らされてボワッと光ったライトセーバ―は映画さながらの臨場感をこの変哲もない野郎部屋に轟かせていた。ある意味薄気味悪いものである。昭雄は淡々と着替えて、大学への途に就く準備をしていた。朝食を慌てて口に運ぶと、あとは竜巻のように玄関まで身体を急かし運んだ。しかし、彼の一連の動作とは相反するように部屋は台風一過のような清々しさを見せつけた。それは彼の徹底した整理整頓に対する固執の結果であろう。

 外の気温は昭雄の予想を無残に切り捨てた。こんな冬将軍、何年振りなんだと煩わしく思う彼をよそに冬将軍はなんの躊躇もなく後ろからの猛追をかけてくる。

やっとのことで最寄駅に到着した。首の皮一枚はなんとかあの冬将軍の凶手から死守できたようだ。

さて、電車がホームに滑り込んでくる頃になると、それまで隊列を組んでいた老若男女は一斉に、ホームを覆う寒さから逃れるために我先にと雪崩のような突撃を披露した。それに対して微かな冷笑を示した昭雄もその一員であることに違いはなく、一瞬にして資本主義社会のストレスが乱舞する“あの”満員電車へ特攻した。彼の冷笑は客観的に見るとただの稚拙なアイロニーに過ぎなかった。

車内では多種多様な人間模様を垣間見ることができる。単語帳片手に朝晩が逆転したかのような顔つきをした受験生君、毎朝痴漢に勤しんでらっしゃる昭和ヒトケタの殿方、ディスコとウォークマンの違いも分からない音漏れ青年、野生動物の威嚇の如く互いのファッションを品定めせらるる姫君女子大生方、云々…

”なんと面白きこの現代なのだ!”

昭雄にとってこれと言って良いほどの趣味はなかった。世の中の何が面白いのか?いや面白いことと言えば毎日こうやって人間様の行動観察をしていることと、いつものさえない友人とくだらんバカ話をするだけであった。そして彼はいつもの如く大学に入っては行く先の毛頭見えない国際展望に、得体の知れない推論という名の香辛料をただまぶし続けただけの講義を聴くだけなのである。

 

麦田大学はいつも通り、盛況である。ほら、大隅初代学長の銅像も今日はそのしかめっ面で浮かない表情をめっきり変えては、変態の如くニタニタと笑っているではないか!

はっはっはっはー…

彼は一人でにやけていた。そして近くのアベックに嘲笑されている構図が出来上がる。”多分、男はテニサーだな。女はオリーブ*1でも読んでそうな子だ。でもホッペがリンゴみたい。出身は青森のどこかの奥地と見た!きっと。ウン!”

アーダコーダ考えているうちに昭雄は教室に到着し、禿茶瓶の現代国際社会学の講義が始まった。禿茶瓶こと本名・赤満労は、僕が専攻している国際社会学の教授でつま先から脳天まで真っ赤っかな教授である。八十年代初頭のいわゆる新人類世代特有の比較的ノンポリ層に位置する昭雄にとってはその押しつけがましい社会主義思想が癪だった。ただ学生運動バリバリ現役世代の若手講師たちからの人気は厚く、あと何年かは元気にやっていることだろう。

 

”だから、ソ連はあと10年で崩壊するんだよ!”

禿茶瓶に対するアレルギー作用からか、これは昭雄の口癖に近い台詞であった。

 

お昼時、昭雄はふらりと食堂によってみたが、どこからか俊彦が湧いて出てきた。長塚俊彦・商学部経営学科一年、昭雄の高校時代からの親友であり、悪友でもある。

「なんだお前か」

別にかわいい女の子を期待して出てきた言葉などではない。

「今日の禿茶瓶の講義、どうだったんだ?」

俊彦はまるで答えを知っているような体で言った。

「あいつの言ってることは全く意味が分からん。もう勝負はついているはずなのに」

「何がだ?」

「冷戦構造の行く末だよ!あと十年でソ連は崩壊する。これは自明の理だ」

昭雄はいつもの口癖を放った。

「やっぱりな。今日も一段と不機嫌そうだなと思ってたらな~」

当たりめえだろ、朝からこんな寒さに悩まされ、それに禿茶瓶の大演説ときたら僕の幸福フラストレーションは急上昇だよ!」

昭雄はそう言ってげっそりした顔を俊彦に近づけた。

「ちょっと君に紹介したい所があるんだよ」

俊彦は何か閃いたような面持ちだった。

「なんだ?ねずみ講ならゴメンだぜ」

昭雄は俊彦の言うことなどちっとも期待していなかった。

 

そして俊彦はいつものように教授陣の悪口を言いながら、昭雄を”紹介したい所”とやらに連れていくためにとことこキャンパス内を歩いた。やがて周りの景色はもはや昭雄の知らない景色となった。そこは普段彼でも立ち入ったことのない場所であった。

「ほら、ここだぜ」

古そうな二階建てコンクリ造りの建物である。建物に飲み込むようにして蔦が絡まり、入り口はひっそりとこちらを伺うかのような佇まいを見せている。

「なんかヤバそうだな。おいお前、何か政治結社にでも入ってるのか?」

「いいから、来いって」

訝しげな昭雄を俊彦は強引に引っ張って中に連れて入った。

入り口の玄関から一直線に伸びる暗い廊下は一定間隔を空けて並列するドアたちを両側に伴いながら半永久的に続くと思われ、いささか不気味だった。しかし、一つだけ何やら明るく光るドアが目立っていた。それは正面から見て右から三番目のドアである。俊彦はそれまで引っ張っていた昭雄の手を離し、夢遊病患者の如くそのドアの前に行き、そして開けた。

「ちわ~、どうも~」

彼はひょうきんな声でドアの向こう側にそう言うと、昭雄の方をちらりと見てからまたその向こう側にこう言った。

「今日は新入り、連れてきましたよ~」

そしてささっと昭雄の元へ戻り、先程と同じ様にして腕を引っ張り、あのドアの前に誘った。さて、あの中は天国か地獄か、その正体や如何に!中には四人の男と二人の女がいた。その光景は「未知との遭遇」の宇宙人対面シーンさながらであった。すると六人のうちの一人の男が交信を試みてきた。

「君が新入りなのかい?」

彼は巨漢であったが、どこか鋭い目つきをした男であった。

「い、いや、僕はその別に。ただ、この俊彦に連れて来られただけで、そんな気はさらさら。そもそもこれ一体何のサークル、というか集団なんですか?」

横でこう言われようが俊彦は平然としていた。すると巨漢の男は昭雄に向かって落ち着いた物腰でこう言った。

「いやぁ、ここはマンガ好きの集う漫画研究同好会で、通称漫研と呼ばれる学内非公式のサークルなんだよ。でも漫研とは名ばかりでね、実際はSFファン、アニメファン、特撮ファン、ミリタリーファンなどなど多種多様な好事家たちの吹き溜りの場でさ。ただ、今、部員が少なくて困ってるんだよね。そこでだ。君、体験入部でもいいから、うちのサークルに入ってみないかね?」

昭雄は勿論ためらった。しかし、この日の彼の気分が憂鬱だった事、そして未知なる物に少なからず関心を抱いてしまう人間の生理的衝動が引き金となった。また、特に趣味のない彼にとってこのサークルは気晴らしに十分だった。

「まあ、他にやることも特にないですし。じゃあ、体験入部くらいなら」

商談成立だ。巨漢の男は目尻に皺を寄せ、微笑んで手を差し出した。昭雄は無意識に彼の手を取り握手した。

「いや~、感心感心。嬉しいねえ。私の名前は秋山芳樹。商学部経営学科三年だ。専門は漫画とアニメ。よろしく」

「こちらこそ。文学部社会学科一年の篠田昭雄です」

挨拶を終えた秋山は微笑みながら、顔の三分の一を占める程の大きなツーブリッジの眼鏡をひょいと持ち上げた。

ここでさっきまで一連の取引を見守っていた俊彦がここぞとばかりに口を開いた。

「昭雄、君には早速部員を集めてもらいたい。部員を多く集められたら君はここの幹部の地位だぜ」

「やっぱりねずみ講じゃねえか!」

「冗談だって、冗談!がはは」

このくだらない会話の後に昭雄が目にしたのは残りの”異星人たち”であった。秋山は昭雄を彼らの元へ案内した。ここから先は彼らの母船の中だ。秋山はメンバーを一人ずつ丁重に紹介した。部屋は六畳程の広さで、置かれているインテリアは本当に宇宙船の設備さながらであったが、これらはインテリアなどではなかった。

「右奥であぐらかいてテレビに食いついてるのが工学部機械工学科二年の山岸透。専門はメディア機器、そしてアニメファンてとこかなあ」

「あの人は今何やってるんです?」

「あれは録画したビデオを見返してるんだよ。録画失敗してたらコレクションとしておじゃんだからね」

テレビの横にはこの宇宙船の中枢コンピューターのような機材の数々が積み重なっていた。

「はあ」

「あの人、いつもあんなんだから大仏って呼んでんだよ」

俊彦はそう言ったが、その口ぶりでは大分この集団に馴染んでいるようだった。案内の主導権は秋山に握られていたものの、俊彦はその助手役として上手く立ち回っていた。

「山岸の隣で椅子に座って本を読んでるのが文学部哲学科二年の三里塚三里塚は生粋のSF…いや文学青年で、昨年度、文芸同好会から転部してこっちに来た」

すると、それまで本を読んでいた三里塚がこちらに気づいて本を閉じ、立ち上がって近づいてきた。椅子の側のテーブルの上で閉じられた本の表紙には高千穂遥という言葉とクラッシャージョウという言葉が飾られていた。そしてその近くには小松左京の小説が置かれていた。長髪の細身でパンタロンを穿いた彼は一見、長身に見えたが、よく見るとそうでもなかった。

「俺は文学部哲学科二年の三里塚信康。まあ文芸同好会から追放されしこの俺はエデンの園へとやってきた純文学青年なわけだが、今後ともよろしく」

知的な学生運動家のような面持ちだが、言葉の節々に感じられる攻撃性と、絶望の深淵を模写したかのような垂れ目の瞳が悲壮感をひしひしとこちらに伝えてくる。

「ところで何を読んでいたんです?」

昭雄はさっきの本が気になっていた。

「ああ、あれは高千穂遥クラッシャージョウってSF小説だよ」

機動戦士ガンダムのキャラクターデザイン担当である安彦氏がイラストやってる小説だな」

遠くから山岸の甲高い声がした。昭雄にとっては意味がさっぱり分からない会話だった。

「今は訳わかんないかもしれんが、気にすんな。じきに慣れるさ」

そう言ったのはさっきまで右奥で何やら物騒な物をいじくりまわしていた迷彩服の、顔面の骨格のはっきりとした、やや体格の良い男だった。その男は秋山の紹介を待たずに自己紹介を始めた。

「俺は文学部心理学科二年の辛子由紀夫ってもんだ。専門はミリタリー関係。去年は一応自衛隊体験入隊していた。以上。よろしく!」

「けっ、出てきやがったぜ。新右翼気取り!ずっとチャカなんかいじりやがって、ジョンウェインにでも勝つつもりか?」

三里塚はまるで蕁麻疹ができたかのように反応した。

「これはAK-47だ。ガンマンの持つような銃ではない。貴様の大好きなソ連の1947製自動小銃だぞ。あと、俺がガンマンだったらジョンウェインなんかよりもイーストウッドに決闘を申し込んでるね」

「そうやって言いくるめようとしても無駄だぜ。そもそも実銃でもないくせに何の価値があるってんだ」

男のロマンだ!お・と・このロマン!このスカポンタンー!」

「まあまあ御両人とも、新入りの前でそんな見苦しい事するなよ。な!」

秋山は手慣れた感覚で二人を諫めた。どうやらこの二人、非常に仲が悪いらしい。

二人に平静が戻ると、昭雄は三里塚に向かって何気ない質問を送った。趣味が無いにしろSFに多少興味があるのは間違いでないからだ。

SF小説好きなんですか?」

「ある程度は嗜むよ。時流の作品もきちんと履修しなきゃだめだからね。まあでも、所詮SF小説だからね。やっぱ太宰みたいなのがいいのよ文学ってもんは」

と言って昭雄との会話を続ける意思もなく踵を返した三里塚の尻ポケットからはみ出ていた文庫本の表紙には”筒井康隆”の四文字がしっかりと刻まれていた。

高千穂遥は今ではラノベに相当する、当時としては革新的なメディアミックスの手法を取り入れたSF作家であり、当時より以前から名を馳せていた斬新かつシニカルな作風で知られているSF作家・筒井康隆もこの頃からその系統を汲み始めていた。小松左京は言わずもがな”日本沈没”に代表される本格的現代SF作家である。とどのつまり、どれもSFである。

右手前の方では何やら物々しい様子で電話している男がいた。何やら大雪がどうのといった感じの会話をしているようだ。

「今、お取込み中なのが、法学部法律学科三年の相川敏春(としはる)。専門は特撮、アニメ。あと正統派ではないが漫画も描ける貴重な人材だ」

昭雄に俊彦が「相川さんは通称・杜子春と呼ばれている」などと色々教えていたりしていると、相川は電話するのを終えて秋山に話しかけた。

「いや、失礼。ほら、うちの実家が山形だろ。今、大雪が凄いもんだからさ、心配で心配でね、ちょいと電話してたんだよ」

「家族のことが気にかかるのは充分に分かるんだけど、部室の電話は控えてくれよぉ」

「いやぁ、すまんすまん」

大雪とは一九八〇年十二月から一九八一年三月頃にかけて猛威をふるった五六豪雪のことである。相川の顔は聡明さに満ちあふれており、七三分けの髪型はそれを象徴していた。そして、この砕けたやりとりからして秋山と相川はどうやら旧知の仲であるらしい。

「最後に、左手前の机で一生懸命ペンを走らせているのが漫研の正統派、由実&絵里だ」

すると二人は同時に顔を上げ、昭雄の方に向かって微笑んだ。

「お、新入りクンかぁ。私は文学部国文学科三年の井原由美。ここで正統派の残党として活動しちゃってる通り、専門は漫画とイラストね。分からない事とかあったら遠慮なく相談してきてね」

彼女は恐らくブローしたであろう艶やかな長いストレートの黒髪が特徴的で、淡々とした物言いは如何にもな姉御的オーラを轟かせていた。続いて彼女の横から声がした。

「私は同じく正統派やってる教育学部教育学科一年の三宅絵里。専門は少女漫画の類でーす。今後ともよしなに~」

溌剌とした、聖子ちゃんカットの、少しぶりっ子キャラの入った女の子だったが、特徴的な八重歯が彼女に与えた可愛らしさはこの殺伐とした雰囲気の漂うサークルのオアシスでもあった。この一連のやりとりの後、彼女らはすぐさま目の前の仕事に没頭し始めたが、その仕事に対する二人の連携を見るに、この二人の間には師弟関係のようなものが成立しているようだった。

これで一連の部員紹介と挨拶は終了したかのように思われたが、昭雄はたまにしか顕現しない鋭利な才を発揮した。

 「ところで…俊彦。お前はこの部の一体なんなのさ」

昭雄は俊彦を白い目で見つめた。

「いやぁ、俺もSFやマンガ好きでさ~」

「ほう、二枚目のお前がか」

「カノジョには内緒にしといてくれよ」

事実、俊彦は常時ふざけた男だが、妙に気障な男でもあった。そういった人となりだからか高校以来、女性関係に飢えていない男であった。ここで三里塚は昭雄に対して先程切り捨てた会話を再開するが如く質問を送った。

「お前、そういや学部はどこなんだ」

「文学部社会学科ですけど」

「専攻は?」

「現代国際社会学です…」

「じゃあ、おめえ赤満先生のお膝元じゃねえか」

「そうですね」

「よく聞いとけよ!赤満先生の重大な国際展望だ。そうかそうかお前も同志だったんだな」

心外な事を言われ、昭雄はいつもの口癖を放った。

「いやぁ、ソ連はあと十年で崩壊しますよ」

「なに言ってんだおめえ。あと十年でソ連が崩壊するわけがなかろうに」

「だから、ソ連はあと十年で崩壊するんですよ!」

非常に口下手な男・昭雄である。

………

先に口を開いたのは辛子だった。

「おい。オメエ、そういう奴だったのか」

「い、いや。違、違うんで…」

「じゃあお前を今日から一水会にちなんで一水と呼ぶことにする」

「いいね。じゃあ俺もそう呼んじゃお」

一水会とは、一九七〇年の三島由紀夫割腹事件の後に発足した、三島の組織した民兵組織”盾の会”の後継団体の事である。新左翼と同様に旧来の主流派思想から一線を画した、反共・民族主義・対米自立を標榜する新右翼として当時話題となった。

昭雄の口癖は誤解一〇〇%の代物であったため、こういう展開になってしまうのも無理はない。そして、いつもいがみあってばかりいる辛子と三里塚はこういうところで変な馴れ合いを見せる。それは初対面の昭雄だけでなく、慣れ親しんでいるはずのメンバーたちでさえをも当惑させていた。とりあえず、この”一水”というあだ名を払拭することが、当面の昭雄の仕事となってしまった。

ここで先から滅多に口を開かなかった山岸が昭雄に話しかけた。

「とりあえず。これで、予習」

たったそれだけ言って一本のビデオを渡した。ビデオ背面のラベルには”伝説巨神イデオン”とあった。これを見るや相川はやけに深刻そうな顔をして言った。

「おい、これを初心者にはどうかと思うぞ。何しろ怪作だからな」

「いや、これで事足りる。とにかく予習。新入り、ビデオデッキあるか?」

「はあ、ありますけど」

「じゃあ、役者は揃った。どっぷり浸かってこい」

続く

エンディングテーマ 「復活のイデオン」(伝説巨神イデオンより)

 Fukkatsu no Ideon - Isao Taira Lyrics

*1:当時流行の女性ファッション誌